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英字新聞カルチュラル・ニュースの日本語要約


by culturalnews

日本人、人質事件の大誤算

カルチュラル・ニュース 2004年5月 掲載記事の日本語原稿

執筆者=神浦元彰

反米武装勢力と駐留米軍の間で、激戦が続いているファルージャ近郊で、日本人3人が誘拐される人質事件が発生した。さらに1週間後に、日本人のフリージャーナリスト2人がバグダッド郊外で誘拐された。最初の誘拐事件では、犯人たちは捕えた3人の日本人を写したビデオを、アラビア語放送のアルジャジーラ衛星テレビ局に持ち込んだ。3人の人質の背後に、銃やロケット弾を構え、黒いゲリラ服を着た兵士たちが威嚇していた。

その映像を見た日本人は、今までにない体験に大騒動となった。初めて、一般の日本人が中東の戦場で誘拐され、解放の条件として自衛隊のイラク撤退を要求したからだ。すぐに翌日の国内のメディアでは、自衛隊のイラク撤退の是が非か熱い議論が始まった。

しかしゲリラたちには別の誘拐目的があった。ファルージャを包囲して封鎖した米軍に対し、総攻撃を行わないように、外国人人質で「人間の楯」を作る目的である。航空機や戦車で攻撃する米軍に、ゲリラが勝てる可能性はまったくない。そこで米政府に圧力となる国の民間人を誘拐して、もしファルージャを総攻撃すれば人質を殺すと脅迫した。

この事件でわかったことは、日本政府にはイラクでNGO関係者などの民間人が、反占領を主張するゲリラに誘拐されるという予測をしていなかった。イラクの日本大使館員や自衛隊員が誘拐されることは想定していた。しかしイラク復興に貢献しているNGOなどの民間人が、イラクの反米武装勢力に捕らわれるとは思っていなかった。

これは明らかに日本政府の大誤算だった。ちょうどアメリカが独裁者フセイン政権を倒せば、イラクの国民から米軍は解放者として歓迎されると誤算したのと同じである。日本政府がたった5人の人質で震撼したように、アメリカも味方のはずのシーア派の一部が反米の旗を揚げたことに震撼した。

このようにイラクはアメリカや日本の大誤算で状況がどんどんと悪くなっていく。

幸い、日本人5人の人質は解放されたが、まだ多くの外国人が誘拐され、強い脅迫のもとに監禁されている。

非武装の外国民間人を誘拐することは許せない暴力だが、強い敵と戦うゲリラ戦では通常の戦術である。もはやアメリカはイラクで軍事支配できない。そのように思ったときに、ブッシュ大統領とブレア首相は、イラクの復興を国連に委ねることに方向転換したというニュースが流れた。

アメリカの軍事力が無敵ではないことを世界に宣言した。これでイラク情勢が少しでも安定し、多くの命が暴力で奪われることがないことを祈っている。
by culturalnews | 2005-09-08 08:53 | 神浦元彰の世界の見方