英字新聞カルチュラル・ニュースの日本語要約


by culturalnews

カテゴリ:神浦元彰の世界の見方( 17 )

神浦元彰

今年は、3年に一度の参議員選挙が、7月に行われる。

自衛隊は100万票を動かす力を持っていると言われている。現役隊員、OB隊員、隊員の家族など有権者数を合わせると、100万票になる。この組織がさらにフル集票すれば最大200万票を集めることも可能という。参議院比例代表の最低得票数は約30万票である。前回、2004年の参議員選挙では、自民党は万全の策として3人の防衛庁出身者を、比例代表の党公認とした。

しかし結果は3人とも10万票前後の票しか獲得出来ず、全員が落選した。この時から、自民党参議院から防衛庁・自衛隊出身の議員がゼロになった。敗因は、その年の1月に、自衛隊がイラクに派遣されたからだ。このイラク派遣には現役と退役両方の自衛隊員や家族が猛反発した。自衛隊は海外の戦地で戦える法整備や装備品を準備していなかったからだ。

今年7月の参議院選挙では、自民党は早くから選挙対策を進めている。サマワからすでに陸上自衛隊の部隊を撤退させ、“ヒゲの隊長”としてマスコミに登場したイラク先遣派遣隊長の佐藤正久(さとう・まさひさ)1佐を比例代表の党公認としている。

2004年の3候補者は、すべて防衛庁官僚(背広組)の出身者で、自衛隊員(制服組)ではなかった。今回は制服の佐藤1佐を党候補にしたのは、前回選挙で官僚出身者が不人気だったことを考えてのことだった。

そして、自民党の最大の選挙対策だと言われているのが、今年1月9日の、防衛庁から防衛省への昇格である。

防衛庁というのは内閣府の下部組織で、防衛長官は予算要求を直接に財務相に行ったり、閣議へ議案を提案することができなかった。日本の安全保障政策を担当するのは、主に日米安保を取り仕切る外務省の役割になっていた。防衛庁の主な仕事は陸海空・自衛隊を管理することだったのだ。

政策決定権をもつ「省」への昇格は、防衛庁・自衛隊幹部たちの念願だった。自民党は、防衛省職員と自衛隊員の士気を高めることによって、再び100万票以上の集票に期待している。
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by culturalnews | 2007-06-18 17:31 | 神浦元彰の世界の見方
神浦元彰の世界の見方 (2006年12月号の日本語オリジナル原稿)

(翻訳 アラン・グリーソン)

北朝鮮の核実験を受けて、日本では核武装の議論を始めるべきか、揉(も)めている。自民党の有力議員が、日本の隣国で核兵器を持つ国がでれば、日本も核武装を議論する必要があると主張した。安倍首相も自由な議論は大事として、核議論に理解する姿勢を見せている。しかし野党はこの時期の核議論は、核武装を正当化するためと強く反対する。

 しかし多くの国民は、突然に登場した日本の核武装という言葉に驚いた。北朝鮮の核実験を非難しているのに、なぜ日本の核武装が議論されるのか理解できなかった。

多くのアメリカ人は、広島や長崎の原爆投下を、太平洋戦争を早く終わらせて、犠牲者を少なくするために必要だったと考えている。冷戦時代のアメリカ人は、核兵器は全面核戦争を防ぐ抑止力として必要と考えていた。だからアメリカ人には、今の日本で核議論さえも反対することは、理解できないことかも知れない。

そこには日本とアメリカで、戦争に対する考えに根本的な違いがある。一般のアメリカ人にとって戦争とは、正義や自由ための聖なる戦いである。しかし一般の日本人にとっての戦争は、残忍な殺戮や破壊が行われる罪悪なのである。中でも核兵器とはもっと残忍な兵器という考えである。

 これは近代の日本史で、国家が総力で巨大な軍事力を築き、国民の教育や思想を統制し、戦争を美化したことが、日本を最も不幸な時代にしたという反省からである。

だから日本人は本気で日本の先制攻撃論や核抑止論を議論すれば、自然と罪悪感さえも生まれてくる。

しかし、そんな考え方を日本に持ち込んだのはアメリカである。アメリカは日本が再び軍事大国になり、アジアや太平洋でアメリカと覇権を争うことに危機感を持った。だから日本が軽武装する代わりに、日本の安全をアメリカが保証した。

しかし日本人はこの平和主義に感謝している。日本が60年間も大きな戦争に巻き込まれることなく、諸外国から敵対されず、繁栄した国を築くことができたからだ。

北朝鮮は自国への制裁を宣戦布告とみなすと威嚇した。しかし日本は、北朝鮮の核実験に怯(おび)えていない。日本は、北朝鮮への対抗策として、核武装を進めるのではなく、国際社会の先頭で、厳しい経済制裁をとることを決めた。日本は、世界の経済大国の中では数少ない、核兵器を配備して抑止力としない国である。世界第二位の経済パワーを持つ日本は、核兵器が人類に登場して61年目に「非核大国」となった。

北朝鮮の核実験は、日本が核兵器に依存しない「非核大国」であることを日本人に自覚させた。

神浦元彰のホームページ: www.kamiura.com

カルチュラル・ニュースのホームページ: www.culturalnews.com
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by culturalnews | 2006-12-23 14:46 | 神浦元彰の世界の見方
カルチュラル・ニュース2006年4月号掲載

「日本の視点」
報告者=軍事評論家、神浦元彰

 岩国基地は広島市に近い山口県にある米海兵隊の航空基地である。朝鮮半島に近いために、朝鮮戦争にときは最前線にもっとも近い航空基地として使われた歴史がある。

 その岩国基地に米空母艦載機57機が移駐する計画が公表された。空母の母港がある横須賀に近い厚木基地(神奈川県)は都市化が進み、訓練中の艦載機の騒音や墜落の危険で、米軍再編で岩国基地への移駐が計画された。

 受け入れる岩国基地は隣接する海を埋め立て、3年後には市街地に隣接しない基地にする拡張工事が進んでいる。

 しかし岩国市長は艦載機移転の賛否を市民に問う住民投票を提議した。これに対して艦載機を岩国基地に受け入れ、その代償に国から支払われる基地対策費(地域復興資金)を期待する移転賛成派は、国の安全保障という問題を地域住民の争点とする住民運動をボイコットするように運動した。

 もし住民投票の投票率が50パーセントに達しなければ、住民投票は無効となり、開票されないという決まりがある。

 3月12日(日)、日本で在日米軍の再編問題で初めての住民投票が行われた。その結果、投票率は58パーセントで成立し、開票したところ87パーセントの人が艦載機移転に反対を表明した。翌日の新聞各紙はトップ記事で、この岩国住民投票を「市民の大多数が反対」「住民は反対を表明」と報じた。

 この岩国市では4月23日に市長選挙が行われることが決まっている。住民投票を公示した現市長は移転反対派の支持で立候補する予定だ。しかし住民投票で87パーセントが反対を表明しても、今度の市長選挙では当選は難しいと予測されている。住民投票は法的な拘束力を持たないが、市長選挙では住民の複雑な利害関係が絡みあう。選挙では有力国会議員の後援会、業界や企業の組織力、それに地元に対してささやかれる利益誘導などが大きく作用するからだ。だから空母艦載機の移転を容認する市長候補者が有利だという予測が多いのも事実である。

 それでは今回の住民投票の意味は何だったのか。移転容認派は現市長の事前選挙運動と批判している。広大な基地があるから街が発展しないのか。街が発展しないから危険な艦載機が来るのか。岩国の住民たちは大きなジレンマを抱えている。
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by culturalnews | 2006-04-17 14:50 | 神浦元彰の世界の見方

靖国問題の行方

Cultural News 2月号掲載英文記事の日本語原文

報告者=神浦元彰

小泉首相は、2001年4月の総裁選挙(首相選)に立候補したとき、8月15日の終戦記念日に、靖国神社に参拝すると公約した。

日本の戦争で被害を受けた中国や韓国が、靖国神社に首相が参拝することは、日本が侵略戦争を正当化する行為と非難を高めた。

小泉氏は首相になると、中国や韓国に配慮して8月13日に参拝した。それでも中国や韓国は激しく反発し、それ以来、首脳外交が出来ない状況が続いている。

 靖国神社は東京の中心にある皇居に近接する場所にある。江戸幕府体制を倒した維新戦争で戦死した新政府軍兵士から、第2次大戦で死亡した軍人を追悼する神社である。第2次大戦で日本が敗れるまで、靖国神社は陸軍省や海軍省に属していた。靖国神社が慰霊する死者たちは、陸・海軍省から提出される死亡者名簿で決まった。

だから都市の大空襲や原爆で死亡した市民はいない。また戦後に誕生した自衛隊員が殉職しても靖国神社に慰霊されていない。

なぜ靖国神社が力を持ったかといえば、戦後、日本遺族会が政治勢力として誕生したからだ。戦死者を家族に持つ者が、遺族会を作り、莫大な投票数(集票力)で政治力を発揮した。その日本遺族会と靖国神社は互いに連携して力を増していった。

しかし靖国神社が1978年に、第2次大戦後の東京裁判で、戦争指導の罪で処刑したA級戦犯11名を、合祀(ごうし)したことで問題が起きた。その後、靖国神社は第2次大戦を賛美する宗教施設と非難されだした。

小泉首相は靖国神社参拝を心の問題で、戦争で犠牲になった人の慰霊と、平和の誓いをするためと言う。戦争を美化するためではないから、このような問題に外国が干渉するなと強い姿勢で反発する。

しかし最近ではアメリカ政府からも、靖国問題で東アジア外交が止まったことに懸念が出始めた。

多くの国民も、外国の干渉に反発しながらも、靖国神社にかわる国立の戦争犠牲者の追悼施設建設を望んでいる。

最近の報道で、皇居に隣接する「北の丸公園」が国立慰霊施設として、密かに検討されていたことが明らかになった。小泉首相が在任中の今年9月まで、北の丸公園案は動かないが、新たな首相が誕生すれば、北の丸公園案が一気に動きだす可能性が出てきた。
(了)
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by culturalnews | 2006-02-21 16:53 | 神浦元彰の世界の見方
カルチュラル・ニュースの英語HPは www.culturalnews.com です

カルチュラル・ニュース 2005年12月掲載  英文記事の日本語原稿

報告=神浦元彰

「キャンプ・シュワブ飛行場建設は、成田問題の再来になる。地元を無視した政策は通用しない時代」」

米軍再編の議論が活発化してきた沖縄で、新たな問題が浮上した。それは北部のキャンプ・シュワブ基地に海兵隊のヘリ飛行場を新設するという問題である。

これは現在の普天間飛行場が、あまりにも市街地に近く、騒音や航空機事故で市民生活に深刻な脅威を与えている。そのためにキャンプ・シュワブ沿岸の海を埋め立て、代わりのヘリ飛行場を作るという建設案だ。

キャンプ・シュワブの沿岸部にある米軍兵舎を取り壊し、さらに沿海の海を埋め立てて、全長が1800メートルのヘリ飛行場を作るという。埋め立て地には、滑走路の他に、広い駐機場が計画されている。

問題は、このことが地元に何の相談や情報提供もなく、知事や市長も知らない間に日米政府間で合意したからだ。

そこで地元に反対の声があがった。今まで大規模な公共工事を期待した容認派は、沿海埋め立てでは建設費が安すぎると失望した。また沿岸部の飛行場ということで、自宅の上空が飛行コースになった者も反対した。元々の新基地建設に反対派はもちろんだが、環境保護団体も埋め立て海域にジュゴンの餌である藻場があることから反対を表明した。

米軍は沖縄の負担を軽減するために、普天間基地を地元に返還し、第3海兵師団司令部と海兵隊員7千人をグアムに撤退すると表明したのに、キャンプ・シュワブ沿岸埋めてのヘリ飛行場建設には、沖縄の9割の人が反対する異常な事態になった。

慌てたのは日本政府である。日本政府は沖合埋め立てより規模も小さく、沿岸のため環境問題(海洋汚染)も少なく、地元の合意は容易と考えていたからだ。

全国メディアで地元の反対や不満が報じられると、あいついで与党の有力政治家が沖縄に向かった。それは日米合意の内容を説明するためと、一説では1000億円ほどの沖縄北部の振興補助金(450億円は使用済み)を、反対すれば凍結するという。これは一種の脅しである。

沖縄にはこの他にも政府の財政支援に期待することが多い。まず米軍基地がトランス・フォーメーションで返還されれば、基地で働いている日本人の失業対策がある。また基地返還後の跡地整備や、基地地主への補償、さらには新たな地域振興への財政支援である。

そのような話し合いもないまま、ヘリ飛行場の日米合意に住民の怒りが高まった。

日本政府は5年後に、ヘリ飛行場を完成させると米側に約束した。もし日本政府が地元を説得できることなく、強引に飛行場建設工事を始めれば、ちょうど30年前の成田空港建設と同じように、住民を無視した計画のために大混乱した騒動の再現となる。

まさにキャンプ・シュワブでの飛行場建設は第2の成田空港問題に引き起こす可能性がでてきた。
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by culturalnews | 2005-12-01 01:42 | 神浦元彰の世界の見方
カルチュラル・ニュース 2005年10月掲載 英文記事の日本語原稿

報告=神浦元彰

歴史を見ると、朝鮮やイタリアのような半島国家は、大陸から押し寄せてくるグランドパワーと、海洋国家から押し寄せるシーパワーが、押しあって覇権を競う要衝となる。

ロシアや中国が膨張すれば、朝鮮半島は陸路や海路を使って、容易に海に進出できる地政学上の特徴がある。逆に日本やアメリカのような海洋国家が膨張すると、朝鮮半島は大陸への橋頭堡や進出口になる。

その朝鮮半島で奇妙なことが起こり始めている。すでに北朝鮮では産業インフラは壊滅的にマヒしている。電気はないし、電話網も整備が遅れ回線数も乏しい。また道路や鉄路の輸送力は期待できない。そのような北朝鮮に中国の投資が急に増え始めた。

2000年には年間で4億ドル程度のものが、04年には15億ドルに増加している。これは韓国の投資額のおよそ2倍である。

日本が朝鮮半島を併合して統治したときは、北部にある地下資源を活用し、工業化で開発する植民地政策を行った。そのような地下資源に目を付けた中国が、新しく北朝鮮に工場を建設し、地下資源などの輸入を拡大しているのだ。

北朝鮮に大量の埋蔵量があるといわれる鉄鉱石は、04年は60万トン、05年は100万トンを中国に輸出する契約を結んでいる。必要な茂山鉱山の設備投資では1億元(約13億五千万円)を中国が負担した。

投資や貿易だけではない。中国領内には朝鮮民族が住む朝鮮族自治区がある。かつて、日本の植民地統治を嫌って、中国東北部に逃げてきた人たちだ。その朝鮮族に対して中国政府は、朝鮮族は中国民族の一部という教育を強化している。具体的には高句麗王朝は朝鮮族の古代王朝ではなく、中国に属する王朝であるという歴史観である。

これを拡大すれば、朝鮮族が住む今の朝鮮半島は、古来から中国人が住む中国の領土という解釈が可能になる。これに韓国政府は猛反発しているが、北朝鮮が問題視する姿勢は見られない。むしろ中国の経済進出を援軍と称え、投資や工場誘致を歓迎している。

中国はメコン川を開発して東南アジアに中国の経済圏を確保した。中央アジアの国とは、イスラム過激派の拡大を防ぐことで同盟を確立した。さらにロシアとは戦略的パートナーとして、軍事関係の強化を急いでいる。最後に残った中国の東に位置する朝鮮半島は、軍事力を頼らず併呑する戦略のようである。これが中国伝統の技である。
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by culturalnews | 2005-10-17 00:48 | 神浦元彰の世界の見方
カルチュラル・ニュース 2005年8月 掲載記事の日本語原稿

執筆者=神浦元彰

中国が7月に入ると一気に外交攻勢を仕掛けてきた。まずは胡錦涛主席がロシアを訪問して中ロ首脳会談を行った。プーチン首相との会談では、今後、中ロが戦略的なパートナーを結び、アメリカの1極主義に反対することを約束した。またロシアの石油を中国に優先的に提供することに合意した。これは先月6月に、中ロの最重要課題の国境問題を解決し、トゲを抜いたことで可能になった。これからは中国東北部(昔の満州)の大規模開発に、中ロが共同して行うという。

さらに中国の雲南省の昆明では、7月4日から「メコン川流域開発計画(GMS)」の第2回首脳会議が開催された。この会議に出席したのは中国の温家宝首相である。海軍力の弱い中国は、南シナ海ではなく、メコン川を交流路として整備し、東南アジアに経済進出する主要ルートとした。

このためメコン川の急流にあった危険な岩は爆破され、メコン川のいたるところに新しい港が建造された。その港には内陸部に向かい新しい道路が建設された。それらの大工事は中国の経済援助で行われた。これでメコン川流域のミャンマー、ラオス、カンボジア、タイ、ベトナムでは、中国製品が溢れるようになった。

今回のメコン川首脳会談で、温家宝首相はさらなる援助を約束した。タイには中国が輸入した野菜の代金として、装甲車132両(約43億円)を提供するという。またミャンマーには中国の資金援助で、昨年3個所の水力発電所を完成させたが、さらにラオスを加えて、水力発電所の建設を約束した。これでミャンマーだけでも総電力の6割を中国が援助したことになる。

中国はミャンマーに石油パイプラインを建設している。このパイプラインを使えば、中東の石油がマラッカ海峡を通ることなく、安定して中国の雲南省に陸上輸送することが可能になる。中国はマラッカ海峡の米海軍が脅威と考えている。

さらにプーチン首相と首脳会談を済ませた胡錦涛主席は、中央アジアのカザフで開催された上海協力機構の首脳会議に臨んだ。中国、ロシア、中央アジア4カ国で作る上海協力機構では、中国が中央アジアの治安対策に協力するかわりに、キリギスから中国が石油や天然ガスの供給を受けることを発表した。

アメリカに対しては、中央アジアから米軍の撤退する時期を公表するように迫った。ロシアや中国と隣接する中央アジアは、アメリカの経済援助や軍事力より、隣の大国を意識するしかない。

このように南方はメコン川流域開発で、南を固めた。そして北はロシアとの戦略パートナーの関係を固め、中国東北部の開発を共同で行う。さらに西では上海協力機構で中央アジアに、親中・反米関係を築くことに成功した。

そして最後の仕上げは、東方に向いた朝鮮半島を支配する準備を進めている。中国が朝鮮半島を影響下に入れれば、日本は脇腹にナイフを突きつけられたほどの脅威となる。中国はいかにして朝鮮半島を支配するのか。次回はそれを指摘したい。  (つづく)
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by culturalnews | 2005-09-08 09:16 | 神浦元彰の世界の見方

北朝鮮が核実験?

カルチュラル・ニュース 2005年6月 掲載記事の日本語原稿

執筆者=神浦元彰

日本が5月の大型連休をむかえた頃、北朝鮮が6月にも核実験を行うという報道があいついだ。これを最初に報じたのは、アメリカのニューヨークタイムス紙である。その記事では、北朝鮮の中央部の東岸近くで、軍のトラックが頻繁に走り回り、近くの廃鉱が大量の土で埋められ、そばに観覧席が建設されているという。これは北朝鮮が地下核実験を行う兆候で、観覧席は核実験を見物するためと説明された。

この記事は、ちょうどニューヨークでは5年ごとに核兵器拡散防止を話し合うNPT会議が始まる直前と重なった。

この新聞報道を受け、日本ではパニックと思われるほどの関連情報が飛び交った。北朝鮮は2月に核保有宣言を行ったが、アメリカに無視されたので核実験を行う。あるいは北朝鮮の軍部は核実験を強く求めており、金正日は軍の要求を無視できないと解説した。さらに地下核実験でも放射能は空中に放出され、日本に北朝鮮から死の灰が襲うというものもあった。また、グアムの米軍基地ではB-2爆撃機が、核実験を阻止するために空爆準備に入ったと報じるスポーツ新聞もあった。

さらに日本の全国紙では、CIAの元高官が、「北朝鮮は5~8個の核爆弾を保有している」とか、IAEAのエルバラダイ事務局長まで「北朝鮮は核兵器を保有している可能性がある」と証言した記事が掲載された。

しかしよく考えて欲しい。CIAの任務は北朝鮮の核兵器情報を世界に知らせることではない。北朝鮮に対する国際世論を悪化させ、北朝鮮を孤立させるための情報操作を行う機関である。そのなら、たとえ偽情報でも新聞にリークすることが多い。最初にCIAが知り合いの新聞記者に、北朝鮮が核実験を行う兆候があると偽情報をリークした。そのように考えても情報戦の常識である。

さらにエルバラダイ事務局長は、「北朝鮮は核武装の可能性がある」と話しただけで、「核武装を断定した」わけではない。なぜそのようなことをしたかといえば、イラクの大量破壊兵器の査察問題で、エルバラダイ事務局長はブッシュ政権と激しく対立した。その対立を解消して、今後もIAEA事務局長の椅子を守るために、ブッシュ政権にゴマをすったのである。

結局、中国政府の高官(複数)が、「中国は北朝鮮が核実験を行えば強烈に反応する」とか、「中国は北朝鮮が核兵器開発をしないように強く警告している」と表明した。すると韓国の国家情報院(韓国CIA)の院長が、情報委員会の国会議員に、「北朝鮮が核実験を行うような動きは何もない。そのような報道は間違い」と否定してこの騒動は終わった。

北朝鮮は核カードで脅し、アメリカと直接交渉して、「核武装を行わない」代償として、金正日体制存続を確約させたい。しかしCIAは北朝鮮の恫喝や脅しを誇大利用して、北朝鮮のイメージを国際的に悪くし孤立させる作戦である。またエルバラダイ事務局長は保身のためブッシュ政権との対立を解消したいだけだ。

その事情を知らない日本は、北朝鮮の核実験をめぐって大混乱した。これは日本が独自の情報機関を持たないことと、日本のメディア(記者)で軍事知識が著しく不足しているからである。日本人が多くを学んだ北朝鮮の核実験騒動だった。
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by culturalnews | 2005-09-08 09:11 | 神浦元彰の世界の見方
駐留なき安保、日本を去る米軍-日本にアメリカ軍の司令部が移設させる理由
 
カルチュラル・ニュース 2005年4月 掲載記事の日本語原稿

執筆者=神浦元彰

米軍は冷戦終結後も、日本や韓国など東アジアに10万人の米軍を配置した。これが緊急事態に対応する前方展開戦略である。しかし前方展開戦略は、米軍の駐留コストが高くつくし、異国の地で勤務する米兵たちに不評だった。また沖縄のように、米軍基地によって発生する騒音や犯罪など、地元に与える負担も重かった。その上、徴兵制を廃止した米軍にとって、兵力を東アジアに縛る前方展開戦略は、対テロ戦争で深刻な兵力不足を生む原因になった。

そこで米軍は全世界的に再配置(トランス・フォーメーション)を始めた。これを簡単にいえば、米軍部隊は前方展開戦略をやめて、戦闘部隊は本国やグアムなどに下がり、いつでも、どこでも緊急展開できる戦略に改めることである。

しかし米軍が安易に東アジアから下がれば、そこに軍事力の空白地帯を生み出す。その空白に中国が進出すれば、アメリカは東アジアのプレゼンスを失うことになる。そこで米軍部隊はトランス・フォーメーションで後方に下がるが、軍事力の空白を生まないように配慮することが必要である。

いや、米軍は後方配備で東アジアでのプレゼンスを失うどころか、さらに強いプレゼンスを得ようとするのが、これから始まる日本でのトランス・フォーメーションなのである。

まずアメリカはトランス・フォーメーションとして、韓国や日本と共通の戦略目標を共有することから始めた。互いが別々の目的では、有事の際の連携ができないからだ。次にアメリカは在外の米軍基地を統廃合して、不要になった基地や施設を返還することにした。

その分、米軍は機動力や海外への緊急展開能力を高め、いかなる緊急事態にも対応できる体制に取り組んだ。そのために重い戦車よりも、輸送機に搭載でき、短時間で遠距離に運べる装甲車が重視さている。軽量の装甲車でも、テロやゲリラ戦では十分に役割をはたすことができる。

実際の戦争が起こった場合、軽量兵器やハイテク部隊で戦う体制を作るメドは立ったが、問題は、平時におけるアメリカの東アジアでの影響力をどのように高めることができるか、という、政治の問題である。

そこでアメリカが考えたのは、米・陸海空軍の東アジア司令部を、あえて日本に置くことである。今、海軍は第7艦隊の司令部が横須賀にある。座間(神奈川県)にはワシントン州から陸軍の第1軍団司令部が移転してくる。横田基地の空軍司令部はグアムの司令部を統合して、東アジアと西太平洋の米空軍を指揮する司令部になる。そして座間の第1軍団司令官に、米陸軍の大将級を司令官に配置することにした。

これで日米安保体制は東アジアでプレゼンスを増すことになる。むろん米軍の司令部を守るのは日本の自衛隊が行う。

日米軍事同盟は在日米軍の駐留なき日米安保体制に向かって動き出す。
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by culturalnews | 2005-09-08 09:09 | 神浦元彰の世界の見方

冷戦から脱皮する自衛隊

カルチュラル・ニュース 2005年2月 掲載記事の日本語原稿

執筆者=神浦元彰


昨年、12月末に起きたインド洋大津波被害では、15万人を超える死者が確実になった。すでに世界各地で、津波被災者への援助活動が活発に行われている。

日本政府は緊急援助隊を派遣するとともに、インドネシアのスマトラ島に自衛隊員800人の派遣を決めた。具体的には陸自部隊は5機の輸送ヘリ(CH-47 3機、UH-60 2機)と医療チーム(200人)、海自は大型輸送艦、補給艦と護衛艦の3隻(600人)、空自は輸送機の(C-130)を1機か2機(40名)を派遣する。米軍の空母1隻を含む1万3000人にはかなわないが、日本の自衛隊での海外派遣では、過去最大の派遣規模となった。

さらに今回は、陸海空という3自衛隊が、初めて一つの司令部で統合指揮されることになった。統合指揮というのは、米軍などでは珍しいことではないが、自衛隊では初めてのことなのである。

なぜかと言えば、日本は旧軍の時代から、陸軍と海軍の仲が悪かった。中国大陸に進出したい陸軍と、西太平洋を支配したい海軍の戦略が激しく対立した。

陸海空3自衛隊の初級幹部を、同じ学校で教育するという制度は、戦後の防衛大学で初めて可
能になった。(旧軍には空軍はなかった)

しかし各地の部隊では、陸海空の交流はほとんどなかった。1985年8月日航ジャンボ機が墜落した災害派遣では、陸自の偵察部隊と空自(救難ヘリ)の無線機が通じなく、墜落現場さえも特定できなかった。そのために何度も統合して統合指揮演習を行ったが、実際の現場では陸海空の垣根は大きかった。昨年の新潟・中越地震でも、陸海空が違えば、隣の派遣部隊が何をしているか知らないこともあった。

しかし今回のスマトラ沖では、陸自の部隊は海自の輸送艦をホテルシップ(宿泊艦)として使う。米軍がタイのウタパオ基地に設置した救難支援司令部には、陸海空から選ばれた統合司令部が統一した指揮を行い、C-130輸送機が海空部隊に救難物資を運ぶ。

これは自衛隊が、北朝鮮後の基本戦略に掲げている「離島防衛」作戦の訓練でもある。九州南端から台湾を結ぶ線に並ぶ多くの離島を、陸海空3自衛隊が共同で守る作戦テストの初ケースである。

空自の戦闘機や攻撃機が、海上や離島に上陸した部隊を爆撃する。陸自の部隊を搭載した海自の輸送艦が離島に運び、それを海自の戦闘艦船が支援する。そのような陸海空が一体化作戦のテストである。

これは言うまでもなく、近い将来、東シナ海から西太平洋に進出を企てる中国軍を牽制する戦略だ。しかし自衛隊と中国軍が戦争をするためかと問われれば、日本は離島防衛の能力を高めことで、中国に無用な軍事力行使を起こさせないためと答える。自衛隊が離島防衛することで、中国への抑止力を高めるためである。

これが米ソ冷戦という重い武装を脱ぎ、軽くて柔軟な新しい自衛隊の姿なのである。
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by culturalnews | 2005-09-08 09:06 | 神浦元彰の世界の見方