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英字新聞カルチュラル・ニュースの日本語要約


by culturalnews

北朝鮮が核実験?

カルチュラル・ニュース 2005年6月 掲載記事の日本語原稿

執筆者=神浦元彰

日本が5月の大型連休をむかえた頃、北朝鮮が6月にも核実験を行うという報道があいついだ。これを最初に報じたのは、アメリカのニューヨークタイムス紙である。その記事では、北朝鮮の中央部の東岸近くで、軍のトラックが頻繁に走り回り、近くの廃鉱が大量の土で埋められ、そばに観覧席が建設されているという。これは北朝鮮が地下核実験を行う兆候で、観覧席は核実験を見物するためと説明された。

この記事は、ちょうどニューヨークでは5年ごとに核兵器拡散防止を話し合うNPT会議が始まる直前と重なった。

この新聞報道を受け、日本ではパニックと思われるほどの関連情報が飛び交った。北朝鮮は2月に核保有宣言を行ったが、アメリカに無視されたので核実験を行う。あるいは北朝鮮の軍部は核実験を強く求めており、金正日は軍の要求を無視できないと解説した。さらに地下核実験でも放射能は空中に放出され、日本に北朝鮮から死の灰が襲うというものもあった。また、グアムの米軍基地ではB-2爆撃機が、核実験を阻止するために空爆準備に入ったと報じるスポーツ新聞もあった。

さらに日本の全国紙では、CIAの元高官が、「北朝鮮は5~8個の核爆弾を保有している」とか、IAEAのエルバラダイ事務局長まで「北朝鮮は核兵器を保有している可能性がある」と証言した記事が掲載された。

しかしよく考えて欲しい。CIAの任務は北朝鮮の核兵器情報を世界に知らせることではない。北朝鮮に対する国際世論を悪化させ、北朝鮮を孤立させるための情報操作を行う機関である。そのなら、たとえ偽情報でも新聞にリークすることが多い。最初にCIAが知り合いの新聞記者に、北朝鮮が核実験を行う兆候があると偽情報をリークした。そのように考えても情報戦の常識である。

さらにエルバラダイ事務局長は、「北朝鮮は核武装の可能性がある」と話しただけで、「核武装を断定した」わけではない。なぜそのようなことをしたかといえば、イラクの大量破壊兵器の査察問題で、エルバラダイ事務局長はブッシュ政権と激しく対立した。その対立を解消して、今後もIAEA事務局長の椅子を守るために、ブッシュ政権にゴマをすったのである。

結局、中国政府の高官(複数)が、「中国は北朝鮮が核実験を行えば強烈に反応する」とか、「中国は北朝鮮が核兵器開発をしないように強く警告している」と表明した。すると韓国の国家情報院(韓国CIA)の院長が、情報委員会の国会議員に、「北朝鮮が核実験を行うような動きは何もない。そのような報道は間違い」と否定してこの騒動は終わった。

北朝鮮は核カードで脅し、アメリカと直接交渉して、「核武装を行わない」代償として、金正日体制存続を確約させたい。しかしCIAは北朝鮮の恫喝や脅しを誇大利用して、北朝鮮のイメージを国際的に悪くし孤立させる作戦である。またエルバラダイ事務局長は保身のためブッシュ政権との対立を解消したいだけだ。

その事情を知らない日本は、北朝鮮の核実験をめぐって大混乱した。これは日本が独自の情報機関を持たないことと、日本のメディア(記者)で軍事知識が著しく不足しているからである。日本人が多くを学んだ北朝鮮の核実験騒動だった。
by culturalnews | 2005-09-08 09:11 | 神浦元彰の世界の見方